石田敦子『キオクの花』(ビッグコミックスピリッツ/カジュアル増刊)

ハリウッド映画では、この数年『メメント』や最近では『フォーガットン』など、記憶障害を扱った映画がいくつかありましたが(まあ、『フォーガットン』はトンデモ映画なんだけれど)、その記憶障害をモチーフに、石田敦子濃度を濃ゆく注入して描かれたサイコホラー短編漫画です。一人のOLの女の子が、付き合っている彼氏にある晩、指輪をプレゼントされて、彼女は心の底から驚き喜ぶ。けれど、彼女は、翌日には彼氏に指輪を貰った事を、何も覚えていないのだ。自分が指輪をあげた事を忘れられているのを知った彼氏は、その事に呆れながらも、1度彼女の指から指輪を外してから、もう1度指輪をはめてあげ、渡す儀式をしてやる。今度こそ、いや、今度も心底喜ぶ彼女。しかし、翌朝にはまた、彼氏から指輪を貰った事を、すっかり彼女は忘れてしまっているのだった。そして………。
冒頭で彼女が、ちょっと物事を忘れっぽいドジっ娘OLとして描かれているから、最初に指輪の件を忘れている時は、アレ?!っと思うだけだったが、何をきっかけに健忘症になるのか気づいた彼女は、思いもよらぬ方法で対処法を見い出し、それが意外方向へ転がりエスカレートしていく様は、読んでいてザワザワした。いや、だって、OOOOまでは、まだ分からないでもないけれど、その後、あんな事やこんな事までしてしまって……ハァハァ。後半の展開は女性ならではの発想、と言うか、如何にも石田敦子っぽいドロドロネチャヌチャ具合だ。ラストへの畳み掛け方はスゴいけれど、逆に言えば、ちょっとページが足りないような気もしないでもない。これで後半のアレコレを膨らませれば、コミックス1冊分の成年コミックになるようなアイディアだ。是非ともこれを原作にして、山文京伝に成年漫画誌で連載して貰いたい、って、前にも同じような事を書いたか。いや、成年コミックではなくてもいいのだけれど。サイコホラー好きな人、寝取られ好き、『アニメがお仕事!』など、特に『いばら姫のおやつ』収録作品辺りが大好きな石田敦子ファンに、是非ともお薦めしたい傑作